モノラルとステレオ(mono / stereo)

モノラルとステレオとは
モノラル(monaural / mono)は、左右の区別なく 1 つの音声チャンネルにまとめた録音と再生の方式を指す。ステレオ(stereophonic / stereo)は、左(L)と右(R)の 2 つのチャンネルに分け、定位と広がりを持たせた方式を指す。
ビニール LP では、ステレオ盤の溝に L/R が物理的に刻まれる。現行の方式は 45/45 システムで、V 字溝の内壁(盤面中心側)に左、外壁に右が、それぞれの溝壁に垂直な変調として記録される。モノラル盤は、一般に横方向(ラテラル)の変調が主体で、ステレオ盤とは溝の刻み方が異なる。
モノラル盤とステレオ盤の違い
再生互換性と溝の中身
ステレオ LP は 1958 年前後から市販され、当初は多くのタイトルがモノラル版とステレオ版の両方で出回った。45/45 はその後のステレオ盤の標準として定着した。
再生の互換性には注意が要る。ステレオ用ピックアップでモノラル盤は再生できる一方、モノラル用ピックアップでステレオ盤を再生すると深刻な溝損傷を招く恐れがある。現行の一般的なステレオ用カートリッジなら、どちらの盤も再生できる。同じ見た目の LP でも、モノラルかステレオかで溝の中身は別物になる。
モノラル盤とステレオ盤のミックス
モノラル盤とステレオ盤は、同じ曲でも必ずしも同じ音ではない。1960 年代の英米のロックでは、モノラル用とステレオ用に別ミックスを作る例が多かった。ザ・ビートルズの場合、1960 年代の UK スタジオアルバムの多くで独立したモノラル・ミックスとステレオ・ミックスが存在し、バンドはモノラルを主と位置づけていた。『イエロー・サブマリン』(1969 年 1 月)もモノとステレオの別版がある。一方、『アビイ・ロード』(同年後半)以降の UK スタジオアルバムはステレオのみで出ている。
ラジオがモノラル中心だった時代には、LP をまずモノラルで仕上げる作品があった。『サージェント・ペパーズ』では、モノラル・ミックスにジョージ・マーティンが約 3 週間、ステレオに約 3 日を費やしている。ただしこれはビートルズの 1 作の例で、ジャンルや年代によってはステレオ主導の作品も多い。
別ミックスとは別に、ステレオ・ミックスの左右を機械的に 1 つにまとめたモノラル版(フォールドダウン)もある。フォールドダウンは、マルチトラックから作り直した専用モノラル・ミックスとは別物である。バランスや音像も変わる。モノラル LP の市販は、アメリカでは 1969 年頃にほぼ終わった。時期は国によって異なり、イギリスではもう少し後まで残った。この時期以降に「モノラル」と銘打たれた盤には、専用ミックスではなくフォールドダウン由来のものも混じる。
偽ステレオ(電子加工ステレオ)
ステレオ需要の高まりとともに、もともとモノラルで録音された音源を後から 2 チャンネルに加工した盤も出回った。1961 年には、RCA がモノラル録音に「電子ステレオ再処理」(electronic stereo reprocessing)を施した疑似ステレオを発売している。加工は高域と低域を左右に振り分けるフィルタやリバーブなどで、本物のステレオ・ミックスとは定位の出方が異なる。Columbia のウィリアム・S・バックマンは、1 つの信号から正直に 2 つを作る方法はない、とこの手法を批判した。
レーベルごとに商標名が付いた。Capitol の Duophonic、Columbia の Electronically Re-channeled for Stereo、RCA の electronically reprocessed stereo などである。ジャケットやラベルにこうした表記がある盤は、録音当時のステレオ・ミックスではなく、モノラル音源の加工版である可能性が高い。
盤面での見分け方
モノラルかステレオかは、ジャケットやラベルの表記、品番、デッドワックス(ランナウト)のマトリクス刻印から読み取る。表記には「MONO」「STEREO」「MONAURAL」「2-Channel」などがある。レーベルによっては、同一タイトルでも mono / stereo 用に別の品番を振る。
ただし、表記だけで確定できないこともある。とくに専用モノラル・ミックスかフォールドダウンかは、盤面の表記だけでは判別しにくい。版(プレス)ごとの確認や聴き比べ、ディスコグラフィの調査を要する場面も多い。
音への出方として、モノラル・ミックスは定位よりも全体のバランスと密度が前に出る。初期のステレオ録音は左右に偏り、センター付近が空洞に聴こえることがある。単一マイクのモノラル録音は定位のブレが少なく、中心像がまとまりやすい。
ビートルズ盤の実例
With the Beatles の UK 盤で、ジャケット品番 PMC 1206(mono)と PCS 3045(stereo)は同じ曲集でも別ミックスである。ラベルに MONO / STEREO と品番の接頭辞が並ぶ。ただし表記だけでは、専用モノラル・ミックスかフォールドダウンかは確定しない。
ミックスを基準にした盤の選び方
モノラルかステレオかは、盤の新しさや高級さを表すものではない。先に確かめたいのは、その盤が載せるミックスの種類である。
ジャケットとラベルの MONO / STEREO 表記、品番の接頭辞(Parlophone なら PMC / PCS、Columbia なら CL / CS など)、マトリクス・ランナウトの刻印を読む。ジャケットに「Electronically Re-channeled」「Duophonic」「reprocessed」などがあれば、本物のステレオ・ミックスではない可能性を疑ってよい。
届いてから、定位の広がりとセンター像のまとまりを聴く。1960 年代の英米のロックには、モノラルを「本番」とし、ステレオ盤を後追いで短時間に仕上げた作品がある。こうした作品はモノラルとステレオで音の印象が大きく変わるので、両方が手に入るタイトルなら聴き比べてみてよい。
1970 年代以降の作品はステレオ前提が多く、「モノラル」表記があっても専用ミックスではなく付随版のことがある(ただし近年のモノラル再発は、当時のモノラル・マスターを正規に復刻したものが多く、ここで言う付随版とは別である)。表記と品番、年代の制作慣行を版情報サイトやディスコグラフィで照合しても、フォールドダウンか専用ミックスかは確定しないことが多い。通販では事前に鳴らせないぶん、年代を当たりに使う。
最後は、その一枚がどのミックスを今日の再生環境で鳴らすかで決めればよい。フォーマット名の新旧ではなく、実際に鳴る音とミックスの種類を基準にすると、盤を選ぶ判断がつけやすい。