カートリッジ(MM / MC)

カートリッジ(MM / MC)とは
カートリッジ(cartridge)は、トーンアーム先端のヘッドシェルに取り付け、針先が拾った溝の動き(変調)を電気信号へ変換する装置である。方式の大きな分類として、ムービング・マグネット(Moving Magnet / MM)とムービング・コイル(Moving Coil / MC)がある。どちらも針先が溝をなぞり、音楽信号を生むが、内部の構造、出力レベル、フォノステージの要件、針の交換方法が異なる。盤のコンディション表記やプレス工程と並んで、手元の盤がどう鳴るかを左右する要因のひとつが、カートリッジ側の選択である。
MM と MC の仕組み
MM カートリッジでは、針杆(カンチレバー)の先端付近に小さな永久磁石が取り付けられ、固定されたコイルの間で動く。針が溝を追従すると磁石が振動し、コイルに電流が誘導される。
MC カートリッジでは構造が逆で、磁石は固定され、コイルがカンチレバー側に載って動く。追従精度を上げるため、MC のコイルは MM より巻数が少なく、線も細い。コイルの質量を抑えられる一方、出力信号は MM の 2.5〜5 mV に対し 0.2〜0.6 mV 程度と小さい傾向がある。
出力レベルとフォノステージ
カートリッジの出力電圧は、後段のフォノステージ(フォノイコライザー)がどれだけ増幅するかを決める。
| 方式 | 出力の目安 | フォノステージの要件 |
|---|---|---|
| MM | おおよそ 2.5〜5 mV | 増幅 40 dB 前後、入力インピーダンス 47 kΩ 付近が一般的 |
| MC(低出力) | おおよそ 0.2〜0.6 mV | 増幅 55〜65 dB 前後、入力インピーダンスを低く(数十〜数百 Ω)合わせる必要がある |
| MC(高出力) | おおよそ 1〜2.5 mV | MM 入力でも再生できる例があるが、負荷の整合は個別に確認が要る |
MM 専用のフォノステージに MC カートリッジを接続すると、音量不足や周波数バランスの乱れを招く。逆に MC 用の高増幅回路に MM を載せると、過大な信号で歪みやすくなる。MM / MC 切替や、それぞれ専用入力を持つフォノステージが必要になるのは、この出力とインピーダンスの差による。フォノステージが担うRIAA カーブ補正は、MM/MC 共通である。
MC では出力電圧のばらつきが MM より大きいため、増幅量や負荷(ローディング)を調整できるフォノステージが多い。低出力 MC 向けに、ステップアップ・トランスで MM 入力へ信号を持ち上げる構成もある。
針の交換
MM と MC で、針の扱いは大きく異なる。
MM カートリッジは、針先ユニット(スタイラス・アセンブリ)を本体から外して差し替えられる設計が一般的である。摩耗や損傷時に針だけを交換でき、本体を使い続けられる。
MC カートリッジの針先は、多くの場合ユーザーが交換できない。摩耗や破損時はメーカーの交換・修理サービスへ送る運用になる。針の寿命管理は MM / MC 共通だが、摩耗の疑いが出た段階で対処しやすいのは針だけ差し替えられる MM である。
いずれの方式でも、摩耗した針先は音質を落とすだけでなく、盤の溝を削りうる。針の寿命は、カートリッジの種類より先に、盤を傷めない前提として扱う。
摩耗盤とカートリッジ選び
カートリッジの方式は、盤の物理状態を「直す」ものではない。溝のグルーヴウェアや傷は不可逆で、針側の選択は、そうした盤をどう読むかに効く。
摩耗した溝では、針先が溝壁を正確に追従しにくくなる。追従不良が続くと摩耗は加速する。MC はコイル側の質量を抑えられる設計が多く、理論上は微細な変調の追従に有利とされる。一方、低出力 MC はフォノステージの増幅量とノイズ性能に依存する。増幅回路のヒス(サーという持続ノイズ)が、静かなパッセージのノイズとして目立つことがある。
摩耗盤の試聴では、クリーニング後も同位置で同じ音が続くかを先に切り分ける。汚れ由来のノイズは清掃で減るが、グルーヴウェア由来の曇りは残る。フォノステージの不一致は、盤の摩耗とは別の原因で音を濁らせる。カートリッジとフォノステージの組み合わせを確認しないと、盤側の問題と混同しやすい。
アーカイブ用途の再生では、多様な状態の LP を扱う場面で、高コンプライアンスで低い針圧の MM カートリッジと楕円針の組み合わせが実用的な選択として挙げられることがある。MC が盤に優しいか、MM が摩耗盤向きかは、方式名だけで一概には決まらない。摩耗盤では、針先の状態、追従、クリーニングの有無のほうが、方式名より先に効く。
摩耗盤を再生する場面
VG 表記の中古盤を、低出力 MC カートリッジと MM 専用フォノステージの組み合わせで再生する場面を想定する。音量を上げても本編が薄く、リードインのヒスが目立つ。このとき、フォノステージの増幅不足とノイズが、盤のノイズと混ざって聴こえている。同じ盤を MM カートリッジと適合した MM フォノステージで再生し、クリーニング後にリードインと静かな曲を聴くと、曲間のクラックルは残るが、ピアノ独奏の弱い音だけ同じ位置で曇る。この曇りがグルーヴウェアの手がかりになる。カートリッジ方式を変えても、摩耗した溝は戻らない。
盤に合う再生系の見極め方
カートリッジ(MM / MC)は、盤より先に「自分の再生系が何を載せられるか」から確認する。本体や箱、メーカー仕様で MM / MC と出力電圧(mV)を特定する。フォノステージ(アンプ内蔵か外付け)が MM のみか、MC 対応か、MM / MC 切替かを合わせて読む。低出力 MC なのに MM 入力しかない場合、ステップアップ・トランスや MC 対応フォノステージが必要になる。
針の扱いは方式で分岐する。MM なら針の寿命の目安に合わせ、スタイラス単体の交換を前提に管理してよい。MC なら針交換の手間とコストを織り込み、摩耗が疑われる段階で本体ごとの交換や修理を見込む。中古針や購入時期不明の針は、時間記録がない前提で早めに試聴判断へ移してよい。
盤側は、これから鳴らす一枚の状態から入る。コンディション表記が良い新譜や大切な盤を鳴らす前に、針先の状態を確認する。VG 以下の摩耗が疑われる盤では、クリーニング後にリードインと静かな曲を聴き、ノイズとグルーヴウェア由来の曇りを切り分ける。濁りの原因は盤、針、フォノステージの 3 要素にまたがるため、同時に疑ってよい。
MM と MC の「どちらが上か」より、手元のフォノステージと針の状態が盤に合っているかで決める。カートリッジの交換や針交換はできるが、盤のグルーヴウェアは戻らないため、どの盤をどの針の状態で鳴らすかを基準に選ぶとよい。